
ホンダから年末に登場した新型軽自動車「N BOX」に試乗した。このクルマはダイハツがタントで開拓した市場であるが、その後スズキがパレットを投入。OEM車を除くと、3番目にホンダもこのカテゴリに参戦したということになる。N BOXから見えるホンダの答えは、やっぱり日本市場は重要。そして、軽自動車は無視できなかった・・・というものである。ホンダは販売台数の多くを北米を中心に海外で稼いでいる。日本市場の占める割合はトヨタや日産に比べて少ない。そのため、海外が好調な時期にはホンダの幹部は日本市場を軽んじるかのような発言をしていたし、実際に日本向けのラインナップも魅力の少ないものになっていった。中でも日本専用である軽自動車については、世界規模で見れば台数は少なく、ホンダにとっては魅力的に映らなかったようで、「軽自動車は儲からない」といったことを隠さずに言っていたし、ホンダは普通車と同じクオリティで軽も作ってきたが、もうそんなことはやめると受け取れる発言をしたこともある。
■ごめんなさい・・・やっぱり軽は大事でした
先代ライフの前期型で私は感心した。当時のライバルの一歩先のクオリティを持っていた。しかし、それが頂点であり、その後はコストダウンを重ねるばかり。現行型は先代のコストダウンバージョンでしかなく、その分ライバルより少し価格を低めに設定すれば大丈夫とホンダは読んだ。しかし、その読みは外れた。ダイハツを筆頭にスズキもその底力を発揮して、メカニズム、燃費、クオリティすべてにわたってホンダは2世代くらいの差を付けられてしまった。こうなると、値段が少々安いだけではホンダの軽を選ぶ人はいない。その中での世界的な不況。やはり日本での商売も無視できなくなってきた。その答えが軽に力を入れるというものだ。反撃第1弾「N BOX」を見ていると、ホンダの「認識が甘かった・・・」という声が聞こえてくる。
■入れられるものはなんでもいれました!!
N BOXはもったいぶったところがないクルマである。いわばメーカーが勝負に出るときのクルマだ。近年こうしたクルマは先代の通称ゼロクラウンくらいではなかったろうか。なかなかこうしたクルマは出てこないものだ。具体的にはプラットフォームから一新。それだけでなくS07A型というエンジンも新開発。ライフやゼストのP07A型エンジンは、登場から8年目。現在の感覚から言えば、まだ大幅改良で行ける年数である。しかし、ホンダはまっさらなエンジンを用意した。さらに、軽としては初のCVTも採用している。パワートレインはすべて新しいものとなった。それに、流行に乗ってようやくアイドリングストップを採用。そして軽としては初めて全車にVSAを装備するなど一歩先行く安全性を獲得している。また、ホンダがなぜか嫌っていたプッシュエンジンスタートもようやく装備した。それに軽では非常に珍しいクルーズコントロールを装備したモデルまである。
■クラストップのつもりが・・・悔しい。
刷新したパワートレインのおかげで、このクラスではもっとも重い重量でありながら燃費はJC08モードで22.2km/Lと2015年基準をクリアしたのはホンダの執念である。プレスリリースでもクラストップの燃費を謳っているが、2011年11月末との但し書きがある。末というのはおそらく28日を意味するはずだ。ホンダとしてはこのクルマをクラストップの燃費として出そうと思っていたに違いないが、なんと発表の30日より1日前(29日)にダイハツがタントに話題のe:Sテクノロジーを採用し、24.8km/Lという燃費を達成してしまった。なんとN BOXは1日すら天下を取れなかったのである。
■ECONスイッチで性格が変貌!!
N BOXは2つの顔を持つと言っても良さそうだ。そして、その乗り味は3気筒エンジンでなければ軽だとは思えないものである。冷静に比較してフィットクラスのクルマと互角か、それ以上にコストがかかっていると感ずる。それもそのはず、フィットより価格は高いのだ。冒頭でホンダは軽は軽らしく他社と同じように軽基準で行くとの主旨を発言したことがあると言ったが、このクルマは古き良き時代のホンダの軽が帰ってきた印象。クルマ作りに「軽だから」という言い訳は見えない。ホンダの代表作にしたいという熱意が伝わる。もしかすると、海外への輸出も進出も考えているのかもしれない。ただ、地域柄タイヤはブリヂストンのブリザックREVO2という高級なタイヤが付いていたため、乗り味については夏タイヤだともう少し安っぽい印象を受けるかもしれない。
ライバルのタントと一番違うのは、バスに乗っているような感覚が少ないことだ。背はバモスよりも高く、ガラスエリアも大きいのに、そうした印象を受けないのは、ドライビングポジションの設定にもあるだろうが、乗り味から受けるものも大きい。ホンダのミニバンに共通する低重心というコンセプトをN BOXにも投入しているのがわかる。動力性能はNAエンジンでも市街地では思ったほどパワー不足を感じない。しかし、実用域での話しであり、60キロを超えると加速は苦しくなる。ただ、ECONスイッチがONの状態での話しで、帰りにOFFにしてみると、その性格は変貌し、驚いてしまった。突然昔のホンダの軽のように軽やかに高回転まで回り、非常に元気のいい走りを見せてくれるのだ。行きと帰りでは違うクルマに乗っているかのような感覚になった。それほどパワーを抑えた走りをして、燃費を稼いでいるということだろうが、エコがさかんに叫ばれる中にあっても、プリウスのパワーモードにも言えるが、元気の良い走りができるモードもあるのは悪くないと思う。ただし、ECONをOFFにするとアイドリングストップは作動しない。
■価格は高め
N BOXは価格もライバルより高めである。一番ベーシックなモデルでも124万円。ライバルよりも10万円は高い。しかし、比較して乗ってみればこの差は納得できる。また、VSAなどの基本装備の高さもあり、それほど高くはない。市場もそれはよく理解しているようで、すでに27,000台の受注を得ているという。
■おもしろくはないが、高級な道具である
ホンダらしさという点では、センタータンクレイアウトや、普通車のメーカーが作る軽という意味で、クオリティの高さなど、独自性は認められる。ただ、よく言われる走りの楽しさというのは感じられない。ホンダはすぐそこに持っていきたがるが、このクルマの場合にはそれは不要である。ただ、ダイハツタント、スズキパレットよりも上等な商品であることは手に取るように伝わる。高級な道具として求めれば後悔しない1台であるし、個人的には今の軽自動車の中でイチオシである!最後にホンダに要望であるが、カスタムの外観はいかにも下品である。標準仕様の品の良さと比べたら同じクルマに見えないほどである。せっかくターボエンジンを作ったなら、標準仕様にも設定して欲しい。そう思っている人は意外と多いと思う。
